銀幕のいぶし銀・第94回
『スパイダーマン2』
(2004年、アメリカ)
監督:サム・ライミ
出演:トビー・マグワイア、キルスティン・ダンスト
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今夏の映画興行はアテネ五輪の影響で普段より前倒しになっており『ハリー・ポッター』や『デイアフタートゥモロー』などの大作が毎週のように登場しているが、他方で『世界の中心で、愛をさけぶ』など邦画の好調も続いており、近年にない活況を呈している。そんな中で満を持して公開されているのが『スパイダーマン2』である。02年に大ヒットした前作に引き続きスパイダーマンの活躍を描くシリーズであるが、その人気の高さの割には正当な映画的評価を与える批評が少ないように思われるので、今回は興行価値だけでない『スパイダーマン2』の魅力を考えてみたい。
初めに指摘せねばならないのは監督のサム・ライミである。S・ライミといえば『死霊のはらわた』なのであり、B級テイストあふれる破天荒な作風は以前からマニアックな映画ファンを魅了していたが、『シンプル・プラン』の頃からシリアスにドラマを構築できる手腕も見せはじめ、その成功がこの映画へとつながっていく。以前から『ダークマン』などで伝統的ヒーロー映画に執着していたのだが、今回も一貫してこだわっているのはまさにこの伝統的ヒーローという点である。現代の映画にありがちな超人的ヒーローと違い、真のヒーローはただ強いだけでなく、普通の人間以上にナイーブな面を持ち、より人間的な悩みを抱えるが故に孤独と戦わねばならない、と言う様式は1930年代のJ・フォード作品などで確立した典型的アメリカ映画のヒーロー像であり、スパイダーマンシリーズにおいてS・ライミが目指しているのはまさに現代における伝統的ヒーロー像の復権であると言えよう。
前作で、河上のロープウエイを巡って激戦が繰り広げられる時、危機に瀕するスパイダーマンを助けようとして一般市民たちが橋上から石つぶてを投げつけるという印象的なシーンがあるが、これがまさに伝統的ヒーロー映画のスキームである。つまり一般市民の力の結集でヒーローを助けるという構図は文字通りF・キャプラ以来の理想主義的民衆賛歌なのであるが、S・ライミはそこから当時の社会的思想背景など簡単にすっ飛ばして、ただ純粋に映画的フォルムとして活用していくところに驚かされるのである。さらに『〜2』ではこのフォルムがより明確に強調されることになる。他にも人間とメカの関係性や、善悪の彼岸を鏡を使って表現する手法など枚挙にいとまがないほど古典的映画技法の手練手管がふんだんに駆使されており、想像以上に映画史的な知恵の集積の上に成り立っている映画なのである。
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