銀幕のいぶし銀・第92回
『子猫をお願い』
(2001年・韓国)
監督:チョン・ジェウン
出演:ペ・ドゥナ、イ・ヨウォン、オク・ジヨン
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『冬のソナタ』のヨン様ことペ・ヨンジュン主役の映画『スキャンダル』が予想以上にヒットしているかと思えば、カンヌ映画祭では日本の同名マンガ原作の『オールドボーイ』がなんとグランプリを取ってしまうなど、韓国映画の勢いはいや増すばかりである。そんな中、以前紹介した『ほえる犬は噛まない』のペ・ドゥナ主演映画『子猫をお願い』が満を持して公開される。
本国では同世代の若い女性たちから熱狂的な支持を集めて話題を呼んだ映画で、いわば現代版『大人は分かってくれない』ともいうべき、映画史上の傑作青春映画に引けをとらない瑞々しさに満ちあふれた作品なのである。
主人公の若い女性5人組は高校以来の仲良しグループである。社会に巣立ち各々の新たな生活がスタートするにつれ、あんなに仲良かった友人たちが少しづつ疎遠になっていく。大会社のOLとなり上司に取り入ろうとするものもいれば、とりあえず親の仕事を手伝いながらボランティアするものもいるし、自分の夢をかなえるため留学を志すものもいる。彼女らはそれぞれの状況において社会の厳しさに直面せざるを得ないが、それが高校時代のようには互いに共有できなくなるのである。天真爛漫に楽しかった学生時代から一転、厳しい現実を前にストレスを感じつつ、お互いの些細なやり取りに憤りや擦れ違いを感じる彼女たちも、それでもチャンスをみては落ち合って互いに支えあおうとする。しかし追い討ちをかけるように、両親の離婚や家庭内での不和など、多感な彼女たちにとってはあまりに辛い現実が容赦なく降り注ぎ、平和な学生の頃からは思いもよらない方向に事態は展開していく。必死に自己を模索する彼女たちは想像を超えた人生の選択を迫られていくのである。
この映画が素晴らしいのは、いわゆる「携帯世代」と呼ばれる若者たちのコミュニケーションの姿が圧倒的に生々しいのである。日常会話のように彼女たちは携帯を使いメールするが、そのようなコミュニケーション形式が逆に日常会話の側に影響し、微妙なことばの隅々に対して鋭敏な感性が反応していく様がここまで生々しくさらけ出された映画はおそらく世界で初めてであるし、若い世代に支持されたのもまさにこの点であろう。お互い傷つけあいながらも何とか絆をつなごうとする彼女らの生々しい姿を時として、男性の前では決して見せない女性特有の毒々しさ・攻撃性をさらすところまで含め、そのまま映画の中に取り込めたのは、一つの快挙といって間違いない。このような生々しさは若い同世代監督だからこそなしうるので、60年代ならF・トリュフォー、90年代ならV・カネフスキーなど、若さ故の瑞々しさがスクリーンに定着する貴重な瞬間に立ち会うのは、今映画を共有するという同時代的喜びなのである。
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