開設 1997/10/4
改訂 1997/12/8
移設 1999/4/29

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銀幕のいぶし銀・第87回

『みんなのうた』

(03・アメリカ)

監督:クリストファー・ゲスト
出演:ユージーン・レビー、キャサリン・オハラ、ボブ・バラバン、ジェイン・リンチ

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 今年の正月映画第2弾といえば、まず注目すべきはショーン・ペン、ケビン・ベーコン、ティム・ロビンス主演、C・イーストウッド監督の最新作『ミスティック・リバー』と来るところだが、今回は正月を飾るにふさわしい隠れた傑作として『みんなのうた』を是非とも取り上げておきたい。監督・俳優陣ともに日本ではまだ殆ど知られていないが、本国アメリカではその独特のコメディ感覚が以前から注目を集めている非ハリウッド・メジャー系映画メーカーであり、この作品も全米で息の長いロングラン・ヒットを記録している中、いよいよ待望の日本上陸となったのだ。


 30年以上も前に一世を風靡したフォークソング・グループを復活させ、一晩限りの再結成コンサートを開く企画が立ち上がる。だがそれに選ばれた3組のグループは、精神的に追い込まれ歌えなくなっていたり、今や地方のドサ回りのような仕事をしていたりと、それぞれに難題を抱えてしまっている。そんな彼らが再び大舞台にたてるようになるまでの悪戦苦闘やドタバタ劇を、何ともおかしい味のあるフォークソングを交えながらリズミカルに描いていくのである。


 彼らの映画スタイルは常に、全く架空の人々・舞台設定をあたかも実在のもののように、どう見てもドキュメンタリー映画にしか見えないように構築していくのが特色である。これはモッキュメンタリー(=疑似ドキュメンタリー)などと呼ばれる比較的新しいジャンルで、既に多くの傑作も生まれているが、その鍵となるのは細部の作り込みと人物の「ハッタリ感」である。そして今回の映画においてもドーナツ盤レコードなど作品のリアリティを生み出す細部の充実度が素晴らしく、特に、当時大ヒットしたという設定のフォークソングの数々が、この映画の影の主人公といっていい出色の出来栄えだ。サビの部分の「ツボ」の押さえ方など一度聞くとまず耳から離れない。また設定こそしっかりしているが、実際の出演者には徹底して即興やアドリブで自由に芝居をさせ、ハチャメチャに盛り上がっていくほど人物のリアリティが増大していくという、まさに映画ならではのマジックを目の当たりにしてしまう作品といえよう。


 映画の面白さは、勿論物語の面白さもあるのだが、より本質的にはスクリーンの中で人物たちがやっていること、つまりしゃべったり騒いだり歌ったり愛し合ったりと、そういうごくシンプルな要素が結局のところであり、シンプルな楽しさの一つ一つが映画を見る幸福を膨らませていくものだ。そのような意味で『みんなのうた』は頭から最後まで映画の喜びに充ち満ちた作品であり、全くもって明るい新年を迎えるに相応しい映画なのである。




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