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銀幕のいぶし銀・第86回

『ほえる犬は噛まない』

(2000・韓国)

監督:ポン・ジュノ
出演:ペ・ドゥナ、イ・ソンジェ

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 1999年のアクション大作『シュリ』が本国のみならず日本でも大ヒットしたことは記憶に新しいが、それにとどまらずファンの間では韓国映画が注目を集めている。韓国では九十年代以降映画を自国文化の重要な要素と位置づけており、政府や公的機関の積極的な支援もあって、現在年間50〜60本もの韓国映画が本国では公開されているという。その勢いを買って日本でも『八月のクリスマス』や『J・S・A』など、次々と話題の新作が配給されている状況が続いている。


 今回紹介する『ほえる犬は噛まない』は、本国ではいわゆる386世代と呼ばれている三十代の若手監督、ポン・ジュノの長編デビュー作である。郊外の巨大マンションを舞台に、大学教授になりそびれている甲斐性なしの男と年上の身重妻、お人好しだが明るく正義感の強いマンション事務所の女と文房具屋に勤める女友達、何やら怪しげな行動を続けるマンション警備員、意地悪なばあさん、子供たちなど多くの愛すべき人物が、連続子犬失踪事件に絡んで騒動を繰り広げる可愛らしいウエルメイドなコメディである。一昨年の東京国際映画祭で日本初公開された時から非常に話題になっていた作品で、同監督の第二作がこの春本国で大ヒットを記録している中の、待望のロードショウであるといえよう。


 この映画が何より面白いのは、洗練されたストーリーテリングの妙と軽快な疾走感である。さえない男は犬の鳴き声にイライラし、つい出来心で子犬を捕まえる。飼い主の少女は悲しみのあまり学校にも行けず、犬探しのチラシを貼り始める。かわいそうに思った事務所の女性が犯人探しに乗り出す。一方男は反省して犬を解放しようとするが、そのころマンション警備員が犬を発見し……といった具合に、一つのエピソードが次々と登場人物のおかしな行動を浮き彫りにしていき、平凡な日常生活があっという間に非日常的な空間へと発展していく。その展開が実にリズム良く繰り出され、何とも味わい深いおかしさの連打には純粋に映画的快感が満ちあふれているのである。


 このようにまるでドミノ倒しを見ているようなストーリーテリングの快感は、ヒッチコックの『ハリーの災難』に匹敵する極めて古典的な洗練度を持っている。むしろ 、とかく冗長な今のアメリカ映画に比べれば、この作品の方が遙かに引き締まって洗練された魅力を持っており、最近忘れられがちな映画の基本的な魅力の一つを思い出させてくれる貴重な作品なのである。




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