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銀幕のいぶし銀・第67回 『突入せよ!あさま山荘事件』('2002/東映・東京放送・アスミックエース・産経新聞社) ―――――――― ―――――――― ―――――――― '73年に起こった金大中氏拉致事件を大胆に描く作品『KT』も公開されているのだが、ここに来て70年代の政治的大事件をテーマにした硬派の映画が続いているのに注目したい。この政治というジャンルは、とかく物議を醸しやすい故これまで慎重に扱われてきたわけだし、しかもある年齢層より上の人にとって今なお記憶に残る事件をテーマにするのは、冒険である。作り手側の意志が明瞭に現れることになるだろう。ただ良くも悪しくも30年の時が過ぎ、ようやく当時の政治的状況を客観的に振りかえれるだけの距離が出来たという事なのかもしれない。 '72年の浅間山荘事件を扱った映画としては、昨年秋に公開された『光の雨』があった。こちらは連合赤軍内部の状況から物語を描いていったのだが、今度公開される『突入せよ!あさま山荘事件』は、表題の通り山荘に攻め入る警察庁・警視庁側の視点から物語を描いていくところが根本的に異なっている。 監督は『金融腐食列島・呪縛』の原田眞人。当時の浅間山荘で実際に現場指揮をしていた警察庁・佐々淳行の原作を基にしているだけあって、警察組織内部の権力争いやお役所的縄張り意識を克明に浮かび上がらせている。マスコミとの関係や、ぎくしゃくする警察内部のあつれきを乗り越えて事件解決にまい進する現場指揮官を、役所広司が扮するのである。一人の犠牲者も出すことなく犯人を捕まえろ、という極めて難しい課題、しかも現場は厳寒の山の中である。犯人捕獲への作戦とそれを実行する現場の警察・機動隊の戦いを、ある種の戦争映画的な迫力で描いていくのである。 『光の雨』そして『KT』もそうだが、両者に共通するのは政治的理想と挫折の狭間で苦しむ男たちの物語であった。ある挫折感、喪失感をぬぐいきれない物語は、見終わった後にも観客に苦い味を残していくのだが、対してこの『突入せよ!あさま山荘事件』は驚くほど政治的空気を排除しきっている。完全なエンターテイメント、土壇場で大活躍するヒーローの物語にしてしまったところが決定的な違いなのだ。立てこもった犯人は銃の発射でしか描かれることはなく、要点はそこにはない。そしてこの戦闘シーンは娯楽映画として極めて見事に成立しているのにはただ驚かされるのだ。この単純な面白さ。娯楽という映画的醍醐味が意外な形で結実したと言えるだろう。
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