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銀幕のいぶし銀・第66回 『ロード オブ ザ リング』('02・アメリカ) ―――――――― ―――――――― ―――――――― 『千と千尋の神隠し』も無関係ではないと思うが、昨年暮れの『ハリー・ポッターと賢者の石』大ヒット以来、ファンタジー映画熱が久しぶりに盛り上がってきているようだ。 『ロード オブ ザ リング』も、『ハリー・ポッター』に続いてイギリス・アメリカで大ヒットを記録し、日本でも大変な観客動員を記録中である。この映画がここまで人気を集めるのは、家族揃って安心して観られる映画が少なくなってきたこともあるだろうし、シネコンという形態の映画館が映画ファンに完全に定着してきたことにもよるだろう。しかし何よりも、この『ロード オブ ザ リング』は大人が見ても十分楽しめる、A級の娯楽エンターテイメントになっているのが大きい。映画のどのシーンも極めてリアルに作られているのである。 確かに最新の特殊効果技術で、どんな時代のどんな世界も、又モンスターなどどんな架空の存在でも、イメージの広がるままに極めてリアリティある映像を仕上げることが出来る。実際映画の歴史は、こういった未知の映像体験を進展させていくことで発達してきた側面は大きいのだが、実は映画のリアリティとは、単純に映像を微細に描き込んでいくことで成立するものではない。むしろ観客が真にリアリティを感じるのは、映画で描かれる世界のトータル的な統一感や登場人物に対する感情移入のさせ方など、どちらかというと映像に現れない部分の構築に因るところが大きいのである。 そういう意味では、原作の壮大な世界に比類する映画化を果たした監督、P・ジャクソンの力は実は大きい。P・ジャクソンはニュージーランド出身で、これまではB級ホラー映画の人と思われたり、かと思えば『乙女の祈り』でベルリン映画祭銀熊賞を取ったりと、一風変わったフィルモグラフィの持ち主であった。彼の監督作で『光と闇の伝説/コリン・マッケンジー』という風変わりなドキュメンタリーの傑作がある。ニュージーランドの秘境で謎の映画フィルムが発見されるのだが、これは20世紀初期の幻の映画作家、コリン・マッケンジーが製作した大作映画であるというのだ。コリン・マッケンジーは独自の方式で世界一早くトーキーやカラー映画を実現していたとされ、彼の実在を証明することで映画史の定説を完全に覆していく、という趣向の映画だが、驚くべきことにこれらは完全なフェイクでありながらも、この映画を一度観てしまうと誰もがコリン・マッケンジーの実在を信じてしまうというリアリティがあるのである。これほどまでに映画のリアリティにこだわってきたP・ジャクソンだけに、『ロード
オブ ザ リング』では自身の才能を十二分に発揮していると言えよう。
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