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銀幕のいぶし銀・第65回 『家路』(2000・ポルトガル=フランス合作) ―――――――― ―――――――― ―――――――― 現在93歳という、現役としては間違いなく世界最長老の映画監督、マノエル・ド・オリヴェイラであるが、驚くべきことに今年も又新作が公開されているのである。当「銀幕のいぶし銀」でも、取り上げることこれで3度目となってしまった。しかも今回の『家路』は2年前の作品であり、この後2本の映画を既に撮影しているというから、その溢れんばかりのパワーたるや、尊敬の念を通り越してただただ驚異的と言わざるを得ない。もはや「いぶし銀」というカテゴリーで紹介することすら憚られてしまう程である。 そして今回の『家路』は、80歳になんなんとするフランスの名優、ミシェル・ピコリを主演に迎え、老境に差しかかった名俳優の円熟味溢れる演技を楽しませてくれるのか……と思いきや、そんな観客の浅はかな期待をあっさり裏切って、演劇・映画における「演技者」の厳しい現実を何の容赦もなくさらけ出してしまうのである。 フランスで名俳優としてその地位を築き上げた男が物語の主人公である。この名優が舞台で喝さいを浴びているころ、妻と娘夫婦が不慮の事故で亡くなってしまう。残されたのは孫にあたる小学生だけだ。男は演技一筋に生きてきた自分の人生を振り返りながら、孫との一時を楽しみ、変わらず日々の生活を続けていく。 そして泥棒に襲われたり仕事に失敗することもあるのだが、この映画がすごいのはそのような日常を決して「暖かく見守ったり」しないところである。この映画においては、キャメラは常に冷徹に事態を捕らえ続けるだけだし、よかれと思って彼に暖かな声をかける人はことごとく上手くいかないのだ。それは彼自身、今までの人生経験から導き出されたこだわりを、仕事や生活に持っているからであり、そんな頑固な人に対して常人の発想をもってしても、全く効果などないのである。 このような途轍もない役どころを演じるM・ピコリは全く素晴らしい演技を披露しているのだが、それを遥かに上回るのが監督・オリヴェイラの斜に構えた演出姿勢というか、底意地の悪さともいうべきものである。M・ピコリの演じる日常を、あくまで冷静に距離を置いた地点から見つめ続け、物語をまるで紙芝居のように、何の勿体もつけずにポンポンと出していく。これは確かに演出の技の極みであるが、間違っても枯淡の境地などではない。これはむしろ「老獪」と呼ぶべきものであろう。
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