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銀幕のいぶし銀・第61回 『ピストルオペラ』(2001/日本) ―――――――― ―――――――― ―――――――― 昔から熱狂的な映画ファンの間では極めて高く評価され、それも日本のみならず近年ではイタリア・フランス・イギリスなどでもファンを増やし続けている、大正生まれの大ベテラン監督・鈴木清順の、実に10年ぶりとなる新作が遂に完成した。 この『ピストルオペラ』は当初、1969年に自身が監督し様々な逸話を生み出したいわく付きの傑作『殺しの烙印』のリメイクとして企画されたのだが、完成したものを見ると、リメイクどころではない大胆なセルフ・パロディ的アプローチで翻案された、奔放きわまりない作品なのである。 『殺しの烙印』は、宍戸錠扮する殺し屋の物語であった。殺し屋ランキングNo.3、すご腕のスナイパーだが炊き立ての米の飯が大好き、という一風変わった役どころの宍戸が殺し屋組織の内部抗争に巻き込まれる。謎を秘めた美人依頼人を助け、姿の見えない敵とユニークな戦いを繰り広げながら、殺し屋ナンバーワンの座をめぐって映画は壮絶なラストへ向かっていく。 極めてクールでスタイリッシュなアクション映画の傑作であり、それまでの日本映画では考えられなかったシュールな映像の頻発、カットの連続性を大胆に飛ばした編集などにより、一部の熱狂的ファンを除いては単に「難解」な作品とされてしまい、鈴木清順が日活を離れるきっかけになった作品だ。 それから10数年の時を経て、若い観客や評論家から清順美学再評価の気運が高まり、昨今のブームとさえ言える状況を生み出してきたのであった。そして今年に入ってからは大々的なレトロスペクティブが催され、劇場が若い観客で溢れかえっていると聞くと、けれん味たっぷりの清順美学を素直に楽しめる映画客層が確実に広がっているのを感じざるを得ないのだ。 『ピストルオペラ』も基本的な物語の枠組みは変わらない。宍戸錠の役どころを江角マキコが演ずるなど、俳優陣が一新されているだけでなく、『ツィゴイネルワイゼン』や『陽炎座』以降見られる、大正浪漫風のモダニズムあふれる抽象的・様式的美学を主体にした大胆な構成は相変わらず健在である。しかし、「今までと同じことをしてもつまらない」と既存の発想を覆し続けた鈴木清順が、今回は『殺しの烙印』のテーマ曲をアレンジして演奏させたりするなど、過去築き上げてきた自作のモチーフを今回改めて検証し直しているのは注目に値するだろう。少なくともこれまでの清順ならこのような発想はなかったはずだが、これは、先を行き過ぎた映画作家にようやく時代が追いついたのを見越して、逆に作品を「難解」にはしないというささやかな贈り物のつもりなのかもしれない。
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