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銀幕のいぶし銀・第59回 『百合祭』('01・旦々舎) ―――――――― ―――――――― ―――――――― 高齢化社会の影響はいよいよ映画にも押し寄せてきており、老人特有の様々な問題をテーマに映画を作る試みが散見されるようになってきた。その都度この「銀幕のいぶし銀」でも取り上げてきたわけだが、それでも、いわゆる「老いらくの恋」というような、老人の性とセックスを真っ正面から扱った映画というのは中々聞いたことがない。 この映画『百合祭』は、自主製作のような形をとりながらも、この未知のテーマに挑むものとして位置づけられることになる。 70〜80代のお婆さんばかりが住むレトロなアパートに、ダンディなおじいさんが引っ越してきたところから物語は始まる。地味な生活をしていたお婆さん達は一気に色めき立ち、皆一様におじいさんの気を引こうと策をめぐらせていく。しかし実はおじいさんはとんでもないジゴロで、次々とお婆さん達と関係を持つようになる……という、ややスキャンダル的な内容も含んだ物語である。 とはいえ話はかなり明快で分かりやすい。登場人物たちも、最早恋に悩むなどというような純情な展開はなく、むしろあっけらかんと、急速に性が解放されていくのであり、その様子が明るく描かれていく。 主役の吉行和子をはじめ、白川和子や正司歌江など、本当の意味でのベテラン女優たちが、比較的大胆な描写も含めて非常に頑張っており、酸いも甘いもかみ分けた老女たちの突き抜けた解放感を楽しみながら演じているようである。 このように、普通は中々チャレンジしにくいテーマにあえて挑むのは、監督の浜野佐知の指向性に因る部分が大きいのであろう。浜野佐知は、実はピンク映画界のベテラン監督として、300本近い作品を世に送り出してきた、知る人ぞ知る存在なのである。『百合祭』を見ても、その演出は極めて手慣れているものがあり、自主製作とはいえそのクオリティは高いと言える。ことに特筆すべきはベッドシーンで、このようなテーマの映画を扱う以上避けて通れない描写を、驚くほど誠実に表現しており、想像以上に官能的な要素を引きだしている。それはある種敬服に値するといっても大げさではないと思う。 この映画は東京でのホール上映のあと、9月末の京都女性映画祭や東京国際女性映画祭に出品が決まっており、その後全国で巡回上映される予定である。
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