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銀幕のいぶし銀・第53回 『アンブレイカブル』('2000/アメリカ) ―――――――― ―――――――― ―――――――― 昨年秋ロードショー公開され、口コミでその面白さが広がっていき結果大ヒットとなった映画『シックス・センス』。監督のM・ナイト・シャマランは当時弱冠30歳ながら、その繊細な演出とラストのどんでん返しで世間をあっと言わせ、主演のブルース・ウイリスはこの映画で新たな演技の境地を切り開いた。この二人が再びコンビを組んで取り組んだのが、現在ロードショ−公開中の『アンブレイカブル』である。 離婚を考えているしがない警備員のB・ウイリスが、列車脱線事故に巻き込まれる。乗客131人が全員死亡という大惨事の中でも、彼だけは全く無傷で生き残った。その不自然さに疑念を払拭できないB・ウイリスは、謎を秘めたコミックバイヤー、サミュエル・L・ジャクソンと出会い、重大な真実を明かされる。それは人間の可能性を超越した存在……アンブレイカブルの秘密であった。 『シックス・センス』が心理カウンセラーと子供の心の交流を軸とした友情・愛情の物語とするならば、『アンブレイカブル』は真のヒーロー映画……ヒーローという存在を真正面から成立させ、ヒーローが真の能力を発揮して悪を倒すという、驚くべき古典的なファンタジーを現代において再構築してしまう物語であり、人間の可能性の両極端を背負っている二人の男の対立は、裏返すと、男のロマンとしかいいようのないものだ。この古典的ファンタジーを支えるのは、その卓抜した演出力なのである。 このインド出身の監督は今回も信じがたい繊細さで芝居を構築していく。基本的にワンシーン・ワンカットの長回しで、俳優陣の演技を最大限に引きだす演出手法は、アメリカ映画では本当に非常に稀なケースだと言える。一方、鏡の反射を効果的に構図に盛り込み、一言しかセリフのないような俳優までストーリーテリングに見事に折り込んでいく脚本の練り込みは、紛れもなく古典的ハリウッド映画の中で熟成された演出法なのである。 前回取り上げた『回路』も人間存在の極限を追及する映画であるが、『回路』が人の死と生、という絶対的・物理的側面からアプローチしていくのに対し、こちらはあくまで人間関係のネットワークの中で相対的に自分の居場所を見いだせるかどうか、一言でいうと、人の孤独と愛、という心理的・人文的側面からアプローチするのが興味深い。監督・キャメラが登場人物を捕らえるその目線が、本当の優しさに包まれていて、観客は物語展開を乗り越えてその古典的至福を目の当たりにすることになるのだ。
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