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銀幕のいぶし銀・第49回 『老親』
―――――――― ―――――――― ―――――――― 老人介護の問題がこれほどまでにクローズアップされる現在では、介護をテーマに扱った映画も多いし、現にこのコラムでも何度となく取り上げてきたのだが、今回取り上げる『老親』は劇映画つまりしっかりとしたドラマなのである。しかも萬田久子・小林桂樹らの俳優陣のみならずスタッフも現在の映画界のかなりの実力者を集めているところが、今までになく特筆すべき点であり、いよいよ日本映画も本格的にこのようなテーマを扱うようになってきたかと思うのだ。
奈良の旧家の長男を夫に持つ萬田久子は、東京の実家の父親の面倒を見ることも出来ないまま、夫と離れ子供を連れて斑鳩で舅(小林桂樹)の面倒を見ることになる。自分の事は自分で、と家事の分担を提案する萬田だが、旧家らしい伝統的な慣習を隠れ蓑に舅はワガママを繰り返す。地方特有の慣習や長男の嫁というプレッシャーをふっ切れない萬田は、夫が大阪に戻ってきたのをきっかけに離婚を決意し、自分のやりたい生活を取り戻そうとする。東京で心機一転新生活をスタートしたとたん、当の舅が上京し、またまたてんやわんやの共同生活へ……という展開が、コミカルな部分を交えながらテンポよく進んでいく。東京ではさしものワガママ舅も萬田に頭が上がらない。いつしか舅はいっぱしの「主夫」へと変貌していくのである。 ただでさえ重くなりがちなテーマが、主演の萬田久子や小林桂樹の軽快な演技に支えられ、嫌味にならずにうまくまとまっている。始めは単なる舅と嫁の関係性だったのが、いつしか愛情の通いあう本当の家族ともいうべき姿に変化していくのが興味深いのだが、恐らく原作者や監督は実際に、親の介護の問題と取り組んでいたのであろう、何でもない描写・何でもない台詞の端々に実際に経験しないと分からないような生々しさが垣間見えるのである。女性監督らしく女性にしか気がつかないような部分を丁寧に積み重ねながら、自分が体験してきた事柄を主人公の女性の目線で語っていくといえようか。きっちり出来上がった映画である。 |