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「銀幕のいぶし銀」第4回 『フレンチ・カンカン』('55、フランス、97分) 監督;ジャン・ルノワール 出演;ジャン・ギャバン、マリア・フェリックス、フランソワーズ・アルヌール 55年キネマ旬報ベストテン7位 ―――――――― ―――――――― ―――――――― 前号に引き続き、ジャン・ルノワール監督作品を紹介したい。 『フレンチ・カンカン』'55年度の作品。ジャン・ギャバンと、当時人気絶頂のフランソワーズ・アルヌールを主演に据えている。 19世紀末のパリ・モンマルトルを舞台に、芝居小屋の経営者J・ギャバンが若い娘F・アルヌールのカンカン踊りに触発されて、有名な「ムーラン・ルージュ」を作り大成功をおさめるまでを描く、一大エンターテイメントである。ルノワールの映画には必ずといっていいほど、大勢の男女がダンスに興じる場面が出てくるものだが、今作はその大好きなダンスをテーマにおいた。 J・ギャバンに関しては説明を要しないだろう。戦前からのフランス映画を代表する国民的大スターであり、J・ルノワールとは『どん底』('36)『大いなる幻影』('37)『獣人』('38)で共にヒットを飛ばしている。その後ルノワールはハリウッドに移り、インド、イタリアを経ておよそ15年ぶりにフランスに戻って来たのだが、その復帰第一作にますます円熟味をましたJ・ギャバンを選んだ。J・ギャバンは当時50才。その脂ののりきった演技で次々と主演をこなしていた頃だ。ルノワールはあるインタビューで「J・ギャバン、彼は映画そのものだ」と語っているが、なるほど彼の演技を見ていると、むっくりとした堂々たる体格と常に一文字に結ばれた口がスクリーンにピタリと収まっていて、その大きな体が若いF・アルヌールといとも軽やかにダンスを舞ったりするとそれだけで画面が生き生きと躍動するのである。 そんなスクリーンこそが自分の居場所だというようなJ・ギャバンがラスト、もうショウには出ないと部屋に閉じこもってしまったF・アルヌールに向かって叱咤激励する。俺は君の才能に惚れ、その才能を開花させるのが自分の役目だ、大事なのはいかに良いものを生み出すか、大衆にいかに受けるかだ、と。本当に人を楽しませる職人として生きるこの人生観、これこそルノワールがハリウッドから長い旅を経た末にたどり着いた境地ではなかろうか。又同時に、スクリーンに自らの場所を発見したJ・ギャバンのセリフにふさわしいものではないか。これに触発され吹っ切れたF・アルヌールが最後に繰り広げるカンカンの、弾けんばかりの圧倒的なパワー。それを舞台裏で静かに聞いているJ・ギャバンの感じ入った顔が、俳優ここに極まれりと実に素晴らしい。 J・ギャバンはこの頃を境に、新進若手スターとの共演が増えてくるようになる。映画俳優にも世代交代の波が訪れるのである。 97/01/12 |