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銀幕のいぶし銀・第27回 『恋の秋』('98、フランス)監督・脚本;エリック・ロメール 出演;マリー・リヴィエール、ベアトリス・ロマン ―――――――― ―――――――― ―――――――― エリック・ロメールと言えばトリュフォーやゴダールと同じヌーヴェルヴァーグ世代である。常に恋愛をめぐるテーマを持って、エスプリの聞いた軽妙な会話劇を繰り広げる独特のスタイルで、今や最もフランス映画らしい映画を撮る作家になっている。 そんな彼もはや78歳。だが今度の新作『恋の秋』では、その作風がさらに洗練され極致点に達していると同時に、驚くべきことに年齢に反比例するようなますます瑞々しく美しい瞬間に満ちあふれた傑作となっているのである。これは連作「四季の物語」シリーズの最後を飾る作品なのだが、その最後にふさわしく、またロメール作品の中でも最高傑作と呼んでいい素晴らしい出来映えなのだ。 ワイン作りに打ち込んでいる女、マガリ(ベアトリス・ロマン)。結婚に一度失敗し、息子と暮らしているけれども実は孤独を感じているのを察した女友達イザベル(マリー・リヴィエール)が、一計を案じて密かに新聞に恋人募集の広告を出す。また息子の恋人ロジーヌも様々な思惑から、マガリに恋愛相手を紹介しようとする。そして新聞広告でやってきた男は、イザベルのことをマガリだと思いこみ、ロジーヌからマガリの写真を見せられた哲学教師は彼女に一目惚れ。何とかマガリにいい恋人をと策を練るイザベルとロジーヌ、そんなことなどつゆ知らぬマガリ、そこにそれぞれ思惑を抱いた二人の男が、あるガーデンパーティーで一同に会してしまうのだが……とこんな話の展開は、ロメールの非常に得意とするところで、相手の気持ちをはかりながら先回りして行動しても、少しずつ失敗や勘違いを引き起こしてしまい、事態はいつしかとんでもない方向へ進んでいってしまうのだ。これはコメディの中でも最も洗練された種類のもので、人間心理のある微妙な側面を実に巧みに引き出している可笑しさといえよう。 主役のベアトリス・ロマン、マリー・リヴィエールともロメールお気に入りの女優なのだが、表向きは気丈で男なんかいらない、といいながらもふっと不安な表情をかいま見せるベアトリス・ロマンが非常にいい。この微妙で繊細な表情の変化を、生き生きと見せてくれる演技は特筆に値する。またそれに対して、女性らしい奔放さを随所に発揮するマリー・リヴィエールも、いつになく押さえた演技でいい。この二人の最高の演技を受けて、監督ロメール自身も大いに刺激されたのだろう、今までの作品に見られたどこかロメールらしい匂いが抜けきって、完全に純粋コメディの境地へと映画が解放されているのである。
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