銀幕のいぶし銀・第21回
『ジンジャーとフレッド』
('86・イタリア)
監督;フェデリコ・フェリーニ
出演;ジュリエッタ・マシーナ、マルチェロ・マストロヤンニ
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イタリアを代表する監督F・フェリーニの晩年に撮られたこの映画は、生涯の伴侶でもある名女優ジュリエッタ・マシーナが久しぶりに登場しただけでなく、マルチェロ・マストロヤンニも出演し、華やかなテレビの舞台裏で起こる騒動を描いたすがすがしい佳作である。
ハリウッドミュージカルで有名な、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの物まねで人気を得た芸人コンビが、30年ぶりに再会し、TVショーで往年のタップダンスを披露することになった。60を越してなおチャーミングなJ・マシーナは、年老いたとはいえそこは芸人のプライドで、何とかショーを成功させようと気持ちを高めていくのだが、節操なく騒々しいテレビ業界にはぞんざいに扱われ、さらに再会したマストロヤンニが姿も気力も衰えたのを見ると不安を覚えてしまう。
皮肉めいた口の悪さこそ昔のままだが、頭は薄くなり足もおぼつかない。懐かしい気持ちの反面なかなか昔のように気持ちがかみ合わない様子を、フェリーニはリズムよくコミカルに描いていく。J・マシーナの方は実業家と結婚し幸せな余生を過ごしていたのに、マストロヤンニは仕事を転々と変えさえない人生を送っていたのだから、この二人の溝は深い。そうして30年の間にずれてしまった人生も、やがて二人が踊ったピアノ曲を聴き、舞台衣装を身に着けると、昔のプロの芸人らしいキリリとした様に変わっていく。若い頃のフェリーニはサーカスや芸人を題材によく映画を撮っていたが、この「芸人根性」の描き方たるや、見事に的を射て、本当にうまい。
そして本番直前、さっきまで大きな口をたたいていたマストロヤンニの、緊張しきった表情。周りの人も二人を見守る中、いよいよステージに登場する。そこで起こったハプニング……は見てからのお楽しみにしておいて、注目すべきは監督フェリーニがJ・マシーナにそそぐ優しいまなざしであろう。テレビ人にプライドを傷つけられ、マストロヤンニと小さないざこざを繰り返しても、彼女は常に前向きに、自分の芸を良くしようと努力している。これはかつて『道』('54)や『魂のジュリエッタ』('65)で我々を魅了した、若き日の彼女の無垢な魅力となんら変わらない。そんな連作の延長線上にこの映画はあり、二人は映画人としての節度を保ちながらも、公私共によきパートナーシップを築いてきたが故に、映画は自然な魅力に充ち満ちているのだ。これこそまさに映画と人生の幸せな結合と呼べるのではないだろうか。
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