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「銀幕のいぶし銀」第12回

『リボルバー』('88年、日本/にっかつ+ロッポニカ)

  監督;藤田敏八
  脚本;荒井晴彦
  出演;沢田研二、佐倉しおり、柄本明、尾美としのり、手塚理美、小林克也

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 先日来、日本映画の話題が増えている。『萌の朱雀』『うなぎ』などに続いて今度は北野武監督が『HANA-BI』でベネチア映画祭の金獅子賞(グランプリ)を取るなど、海外での日本映画の評価が急速に高まっている。その上、今年は邦画も例年にないヒットが多く、しばらくこの活況は続く気配だが、一方で、ベテラン映画人の訃報も又今年は多いのである。先月取りあげた勝新太郎に続き、今回は監督の藤田敏八を取りあげてみたい。

 藤田敏八といえば、『八月の濡れた砂』『赤ちょうちん』『妹』『波光きらめく果て』など、その時々の時代の気分を敏感に反映した佳作を数多く世に送り出した監督であり、最近は映画やテレビで俳優としての活躍も多く、『夢二』や『日本一短い母への手紙』、俳優としては最後の主演映画『ぬるぬる燗燗』などでの、いかにも一本筋の通った中年男役がぴったりはまっていたものだ。

 そんな中で『リボルバー』は、古巣の日活(当時にっかつ)で撮った88年度の映画であり、それがつつましくも自由闊達な雰囲気を放つ傑作で、映画としてはこれが彼の遺作になってしまったのが悔やまれる。

 世の中に収まろうとしても、いつの間にかそこからはみ出していってしまう、そんな人々の愛すべき生活を描く時、藤田敏八の演出は独特の輝きを放ちだす。ふとしたことから拳銃を盗まれてしまった警官が、それを取り戻すため鹿児島から札幌まで列島を縦断し、その間にも銃は全く偶然のうちに様々な人の手を巡り、行く先々で彼らの運命を変えていくという入り組んだプロットの物語であるが、相変わらず藤田敏八は、その愛すべき人間模様を実に手際よく描いていき、主演に迎えた沢田研二も、真面目な警官役を好演して演出にこたえている。拳銃を最初に手にした小林克也の、若いOLにふられる情けない中年サラリーマンといい、男に殴られた悔しさにつき動かされる大学受験生の村上雅俊とそれを追う女子高生の佐倉しおり、いい歳をして定職にも就かずギャンブルに明け暮れ女には縁のない凸凹コンビの尾美としのりと柄本明、偶然知りあった沢田研二に心を寄せていく手塚理美も、この映画に登場する人々は皆世の中に素直に収まらない、どこかはみ出し者と呼びたくなるような生き方の曖昧な輪郭を持っていて、そのつかみどころのない並列に進んでいる複数の生活が拳銃を中心に一つに収斂されていく様が見事だ。そしてこの多くの人物たちの一人ひとりが全て際立って、しかもどこか親しみやすいのはやはりそのリアリティ溢れる演出の技なのである。

                       1997年 9月 17日






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