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改訂 1997/12/8
移設 1999/4/29

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銀幕のいぶし銀・第115回

『グッドナイト&グッドラック』

(2005年・アメリカ・93分)

監督:ジョージ・クルーニー
出演:デヴィッド・ストラザーン、ジョージ・クルーニー、ロバート・ダウニー・Jr

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 ここ数ヶ月というものアカデミー賞ノミネート作品に触れることが続いたが、今年はそれだけメッセージ性の強い話題作や問題作が目白押しだったのである。この映画もまた今年のアカデミー賞有力候補の一つだったと同時に、アメリカ映画史の中でも隠蔽され続けてきたいわゆる「赤狩り」に対して、この大テーマに真正面から取り組む姿勢を示した、そういう意味では画期的な作品なのである。『シリアナ』に引き続きこのような政治的スキャンダラスな映画に今敢えて取り組み続けるG・クルーニーのスタンスは、まずそれだけで間違いなく称賛に値するといえる。


 50年代、東西冷戦時代のアメリカでは、マッカーシー上院議員が先頭に立って共産主義者およびそのシンパを弾圧する「赤狩り」の嵐が吹き荒れ、映画界のみならずマスコミ界全般にわたって言論の自由が抑圧されていた時代だった。この映画の中でもエピソードとして登場するが「赤狩り」によって業界を追われるものも多く、多くのマスコミ人が「赤狩り」に対して沈黙を決め込む中、一人立ち向かったCBSニュースキャスター・エド・マローの活動を軸に映画は展開する。彼自身は共産主義者ではないが、いち報道人としてマッカーシー上院議員の抑圧的な攻撃を暴くべく奮闘する。マッカーシー上院議員の強引なやり方が暴露され、エド・マローの番組を支持する世論が高まる中、マッカーシーは逆にマローこそ共産主義者だと決めつけ直接間接に圧力をかけ始める。


 権力に立ち向かうニュースキャスターという物語のリアリティを追求するためには、敢えてモノクロ映画にするだけに留まらず、当時の状況を完全に再現するニューススタジオのセットをはじめ、細かな小道具まで含めての作り込みは相当なもので、それらが当時の空気感を作り出すのに一役買っている。政治的な話題であるが故に過剰な演出は極力控えられ、殆どドキュメンタリーのような客観的な描写が、次々とテンポ良くたたみかけられる。このあたりは監督G・クルーニーのセンスが光る部分であり、演技するものの生理から出発した演出である。


さらに主役を演じるD・ストラザーンは、信念を曲げない強さと圧力に屈しない態度、そして非常な頭の良さを発揮し、実際のエド・マローはこうであったに違いないと誰もが納得しうるまでに練り込まれた演技を披露する。ここまで信念の強さに導かれた映画も最近珍しいのであり、このような映画が生まれている限りアメリカ映画はまだ期待が持てる、そんな気分にさせてくれる映画なのである。





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