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銀幕のいぶし銀・第112回

『シリアナ』

(2005年・アメリカ・128分)

監督:スティーブン・ギャガン
出演:ジョージ・クルーニー、マット・デイモン、ジェフリー・ライト、マズハール・ムニール

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 久しぶりに骨のある映画に出会えたと思えるのが今回紹介する『シリアナ』である。例年この時期は、アカデミー賞を筆頭に映画賞の話題が豊富な頃なので、見応えのある良質な作品に出会えることも多いのだが、この作品は単なる賞取り狙いのセンセーショナルな話題作とは明らかに一線を画した、確固とした意志の力を感じさせる作品であり、同時にエンターテイメントとしての完成度の高さという点からも見応えのある注目作なのである。


 大きな話の流れからいうと、中東の石油資源を巡ってアメリカの巨大コングロマリットが利権を独占していく様を虚々実々に描いてみせるのであるが、それを主に四つのエピソード・・・武器商人暗殺を自分の最後の任務と決めるが、思わぬ極秘指令を受けアラブで苦闘するCIAベテラン諜報員(J・クルーニー)、国の改革に燃える聡明な王子に心酔し、石油を大国に搾取されぬよう知恵を絞る敏腕アナリスト(M・デイモン)、石油利権確保をたくらむ巨大企業の内にいて、有利な条件で会社合併を成功させるべく野心的に振る舞う弁護士(J・ライト)、ペルシャ湾岸のコンビナートの職を失い、煮詰まった生活からやがてイスラム過激派に感化されていくパキスタン出稼ぎ労働者(M・ムニール)の四人の視点から物語を織りなしていく。この四人が物語の中で直接出会う瞬間は殆どないのであるが、ある一人の起こした動きが波及し他の人物に思わぬ影響を加え、偶然の発見がまた別の人間に試練を与える、といった脚本の妙によってストーリーが巧みに交錯し、結果的に個々人の意志を越えた巨大な物語のうねりが浮かび上がってくる。それを要約すると、石油を浪費することで築き上げられた繁栄に寄り添って生きているアメリカ人たちの、「欲望」と「現実」に翻弄される姿を見事にあぶり出しているのである。


 このように複雑な社会の裏側をえぐるような物語でありながらも、映画としての「分かりやすさ」は完璧に備えているのが驚異である。これはまさにアメリカ映画でしかあり得ないシンプルな方法論、つまり「正義」を巡る作劇術が貫かれているからなのだ。この作品の主要な四人の主人公たちは皆それぞれ自分なりの「正義」を持っているが、それは一般的な意味とは違い、各々の「ささやかな願い」を全うするための「正義」である。各々が貫く「正義」がぶつかり合い、結果として四人共に孤独な戦いを強いられていく構図は、例えば『ミリオンダラー・ベイビー』や『スパイダーマン』にも通じるアメリカ映画の王道であり、ここまでの物語を構築できた力量にはただ感服させられるのだ。





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