開設 1997/10/4
改訂 1997/12/8
移設 1999/4/29

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銀幕のいぶし銀・第107回

『NANA-ナナ-』

(2005年・「NANA」製作委員会)

監督:大谷健太郎
出演:中島美嘉・宮崎あおい・松田龍平

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 今夏は大作が例年以上に目白押しだったせいか、公開時期を調整していた日本映画が今になって続々と登場し始めた。『妖怪大戦争』『容疑者 室井慎次』が大ヒットを記録する中、柴咲コウの『メゾン・ド・ヒミコ』や長澤まさみ主演の実写版『タッチ』など、話題に事欠かない作品が続いている。そんな情況下で公開される『NANA-ナナ-』であるが、主演にミュージシャンであり女優の中島美嘉と、やはり若手人気女優では評価の高い宮崎あおいを並べた良いキャスティングでまず注目なのである。今回抜擢された監督・大谷健太郎は独特のテンポ良い会話劇が特徴の人で、この組み合わせから生まれる映画はどういう事になるのかと思っていたら、意外にも真っ当な日本映画の定石を踏まえた、魅力的な作品に仕上がっていたのである。


 雪深い東北から東京へ向かう新幹線で偶然隣り合わせになった二人の女の子が、たまたま同い年でしかも同じ名前だったという運命の巡り合わせから始まる女の友情の物語である。ひとりはパンクバンドのヴォーカリスト、もうひとりは幼なじみとの結婚を夢見る平凡な女の子と、普通ならまず出会うことすらない二人はさらなる偶然も手伝って共同生活をはじめ、奇妙に意気投合していく。原作漫画の設定どおりの展開だがここで面白いのは、全く性格も仕事も夢も違う二人が共同生活して、お互いをそれぞれのやり方で尊重し合う関係になっていくという、そのリアリティである。二十歳という非常にいい年齢設定がされているということもあるが、ある種漫画でしか成立し得ない状況を、美術や衣装などの細部に拘ることで、漫画を漫画のリアリズムのまま成立させることに成功しているといえよう。実は映画を成立させるために必要不可欠なそういう地道な努力を積み重ねるのは難しいことで、これが映画の作品評価の基盤を形作っているのである。


 その上で、やはり中島美嘉と宮崎あおいがいい。中島美嘉は基本的に芝居というより素の部分を生かした演技であるが、そもそもミュージシャンという基礎にくわえ、あくまで無表情を押し出す存在感がいいのである。そして宮崎あおいがいいのは、恋に恋する女性といういかにも漫画的な役どころを、ありきたりな漫画芝居に陥ることなくリアリティを持って演じていることである。彼女の役どころは客観的にみると実は損な役回りなのだが、そのビハインドを感じさせないレベルを保っている。


 物語も、最初のややゴチャゴチャした構成が後半に進むに従ってどんどんシンプルに修練されていく手際に、かなり練り込まれた手管をみた。シンプルであるというのはよい日本映画の特徴であるが、その点ではこの映画はかなり良くできたプログラムピクチャーの系譜に位置づけられるのであり、日本映画の歴史には決して残らないが確実に存在する良い映画の一つなのである。





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