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改訂 1997/12/8
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銀幕のいぶし銀・第88回

『ラストサムライ』

(03・アメリカ)

監督:エドワード・ズウィック
出演:トム・クルーズ、渡辺謙、真田広之、小雪

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 この年末年始一番の話題作として大ヒットを記録中の『ラストサムライ』だが、意外と珍しいハリウッド映画での本格時代劇であり、渡辺謙がゴールデングローブ賞・アカデミー賞に連続ノミネートされるなど、まだまだ話題の尽きない作品である。


 『リング』『千と千尋の神隠し』や『踊る大捜査線』が大ヒットした頃から、アメリカ映画ビジネス界は日本を含むアジア映画市場を新しい形でターゲットにし始めたと言える。日本の『リング』をハリウッドでリメイクした『ザ・リング』はアメリカと日本双方でヒットを記録したし、昨年はソフィア・コッポラ監督のオール日本ロケ作品『ロスト・イン・トランスレーション』がアメリカで高い評価を得てヒットを続け、この春日本でも公開される。またアン・リー監督、チョウ・ユンファ、チャン・ツィイー主演『グリーン・デスティニー』のアメリカでの大成功から、マーシャル・アーツ(武侠映画)の再評価が急速に進んでおり、『ラストサムライ』もその潮流の延長線上に捉えることが出来る。実際この映画は、上記の状況をふまえた上で最初から専ら日本市場に向けて作られた作品なのだが、アメリカ本国でも事前予想を上回るヒットを記録しているところを見ると、主演でありプロデューサーとしても名を連ねるトム・クルーズの、プロデューサー側の才覚がまたも奏功した作品であるといえよう。


 演出的には非常に手堅い作りである。各役者の芝居をじっくりと見せ続けながら、殺陣シーンや戦闘シーンなどは相当しっかりと練り込まれたもので、エンターテイメント作品として第1級の出来栄えなのだが、ここでポイントになるのはアメリカ映画から見た日本の描き方である。武士道や奉仕の精神などという昔の日本人の「美学」が近代化の波に翻弄され失われていくという物語の大テーマについて、ここで云々するつもりはないが、映画という視点から指摘できるのは、一つには殺陣の姿である。京都の撮影所を中心とした時代劇映画のスタイル、すなわち剣劇を中心とした殺陣がかなりのレベルで弱体化している現状に於いて、例えば『たそがれ清兵衛』では、剣を持つ男達の緊迫と集中力をよりどころに生々しい殺陣を構築していくのが斬新であったわけだが、既にカンフー映画のワイヤーアクションや香港アクションのスタイリッシュな映像をどん欲に取り込んできたハリウッドにあっても、それらの様式性とは切り離されたレベルで、ある種の剣を使う戦いという一点から殺陣を構築していくのが、確かに現代的なリアルさを求める試みといえる。一口に「時代劇」といってもそのスタイルは時代の変化と共に変わるのであり、そういう意味では「今の時代劇」の一つの典型だと言えるかもしれない。




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