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「銀幕のいぶし銀」第7回

『マディソン郡の橋』('95、米/ワーナー、135分)
            (ビデオ:ワーナーホームビデオより発売中)

  監督;クリント・イーストウッド
  出演;クリント・イーストウッド、メリル・ストリープ

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 全米だけでなく日本でもベストセラーになった同名小説の映画化である。「遅咲きの映画作家」クリント・イーストウッドが監督・主演、メリル・ストリープの共演で話題になった。

 ヒットした小説の映画化というのは、ストーリーや登場人物がよく知られているだけに、原作のイメージを踏み外すと客をがっかりさせてしまうものだ。その点この映画化は極めて原作に忠実な作りになっていて、質的にも高い評価を得た上に興行でも予想以上の大ヒットを記録した稀な例だといえよう。

 そう、この映画の鍵は、まさしく「原作に忠実」な点にある。
 アイオワの片田舎で平凡な主婦生活をおくっている中年女性。夫は誠実で働き者、子供たちはのびのびと育っているが日々何か物足りなさを感じ続けているところに、世界を旅する写真家が現れる。ふたりは恋に落ちるのだが……という、ややもするとロマンチックな物語も、煎じ詰めると通俗的な、何度となく小説・映画で繰り返されているテーマである。そんな小説を前にしてイーストウッドは、人物を不用意に美化したりせず、原作に忠実にその生活感・人物のキャラクターを徹底してリアルに見つめなおしていく。

 メリル・ストリープ扮する主婦の、いかにも日々の生活に追われる所帯じみた具合。決して美人でもいい女でもないその姿が本当にリアルだ。例えばふたりが出会って二日目、メリル・ストリープは昼間のうちにドレスを買っておいてある。さていよいよ彼の前にドレスで登場……ところがこれがお世辞にも素晴らしくないドレスなのだ。田舎女性の精一杯張り切っている状況を何の飾り気もなくそのままポンと表現してしまう、そんな調子でイーストウッド流のリアリズムが徹底しているのである。

 そして、派手な見せ場や過剰な演技を慎重に避けつつ、必要最小限の繊細な仕種ですべての心の綾を的確に表現していく演技が見事だ。最後、ふたりは思いを秘めたまま別れ、メリル・ストリープはまた元の生活に戻る。ある雨の日、街に買い物に出かけたとき、遠くの方にずぶぬれで立っている男が……この時のイーストウッドは本当にただ立っているだけなのだが、その立ち姿がストイックな美しさを放っていて感動的だ。立ち姿一つですべてを表現してしまう、これこそ還暦を過ぎたイーストウッドの禁欲的演出の勝利だし、この通俗的な物語をナイーブで洗練された映画にまで高めていく職人技なのである。今月は彼の新作『目撃』がロードショウされるのでそれにも期待したい。

                        1997年 4月 21日





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