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銀幕のいぶし銀・第41回

『雨あがる』

('99・東宝=アスミック・エース)

監督:小泉尭史
出演:寺尾聰、宮崎美子

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山本周五郎の短編小説をもとに、黒澤明が脚本化していた遺稿を、黒澤組を支えてきたスタッフ・キャストで力を合わせて映画化した作品である。これが初監督作となる小泉尭史は、長年黒澤組の助監督を勤めてきただけあって、出来る限り黒澤明の意志を受け継ぐ演出に勤めたという。

すこぶる剣の腕は立つものの世渡りに不器用で、巡り合わせの悪さから貧乏暮らしを余儀なくされている浪人ものと、その妻の物語である。「見終わって晴れ晴れとした気持ちになる様な作品にすること」という黒澤明の覚え書きどおり、綺麗な心根を持つ人の美しい生き方が気持ちよく描かれていて、近年にない「愛すべき良心的日本映画」として注目すべき作品なのである。

今でこそ貧乏暮らしを続けるものの、心をまっすぐに持っていればいずれきっと良いことが訪れる、という物語のテーマ自体、現代の日本にとって大いに必要なものなのであるが、この映画が素晴らしいのは、そんなシンプルなテーマを支える演出・演技そして美術や映像技術などのレベルの高さであり、それらが見事に一体化したアンサンブルの妙なのである。さすが日本映画が誇る巨匠の下に集まっていたスタッフだけのことはあり、映画のどんな些細な点を取っても完璧なまでの構築ぶり、しかもそれらは不必要に主張することがない。実にさりげなく、それでも細部にまで確実に目の行き届いた映画で、これぞ日本映画の伝統技という超一級のレベルなのである。とかく最近の映画が見た目の派手さのみを求めがちなのに比べ、『雨あがる』の清い志はけっして忘れてはならないと思う。

日本映画を取り巻く環境が激変している今においては、いわゆる伝統的な邦画の流れを受け継ぐ映画を作ることが非常に難しくなっているのである。『雨あがる』については、勿論スタッフ・キャストの一人一人が素晴らしい物を持っているからこそ良い映画になるのであるが、しかしこの映画の本当のよさは、そういった個人の才能を足し算して得られるものではない。そこには確実に、核心としての黒澤明が存在している。

ある作品につく映画スタッフのことを称するのに、作品名ではなく監督の名前で「〜組」というのは、現在でも残っている日本独特の伝統であるが、『雨あがる』の素晴らしさは、一言で言えば、まさにこの「組」の力なのである。つまり、黒澤明はいなくなっても「黒澤組」は存在する、ということであり、これこそ伝統的邦画の最大の魅力であるといえよう。





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