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改訂 1997/12/8
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銀幕のいぶし銀・第36回

『知ったこっちゃない』

('97・アメリカ)

監督:アラン・ベルリナー
出演:オスカー・ベルリナー

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 ベルリン国際映画祭をはじめ、世界の映画祭で注目を浴びているドキュメンタリー映画『知ったこっちゃない』が、いよいよ日本でも公開が始まった。

 監督はアメリカで活躍するベテランインディペンデント映画作家、アラン・ベルリナー。父親との対話を通して、監督自身のルーツと両親の真実の人生を描いていく映画……といえば、一見ホームムービー的な題材だが、様々な家族の資料と写真、幼年期の8ミリ映像などを駆使し、ユーモアにあふれ卓越した演出力とリズミカルな編集で、見るものをまったく飽きさせないのである。

 多民族国家であり移民の国であるアメリカでは、自分のルーツ探しというテーマ自体は比較的よく見られるものの、この映画が他と一線を画するのは主人公=父親の圧倒的な存在感である。

 どうにも手のつけられない頑固親父なのだ。80に手が届こうというのに開巻早々から舌鋒鋭く、「映画のネタにはならん」と息子の質問をことごとく否定し続ける。それでも息子は粘り、過去の資料を父親に突きつけても、自分の年齢?祖父母?そんなものは知ったこっちゃないと、結局映画が終わるまで頑なに自分を貫き通し、ほとんど喧嘩腰のやり取りは笑いすら誘うのである。

 そんな激しいやり取りの中でも、少しずつ浮かび上がる父親の肖像、それは頑固さの陰に隠れた愛情と孤独な姿である。若き日の美しい母親との恋愛・結婚もあれば、仕事に失敗したときもある。残念ながら離婚を経験した後も、子供たちや孫を愛し続ける様子は、ごく地道に生きてきた普通の人間の、幸せと悲哀の絡み合った姿が年輪となって父親の顔に現れている。それでも息子の前で毅然とした態度を崩さない父親の姿。それを映画はプライベート映像と現在を融合していくことで見事に表現していくのである。

 ドキュメンタリー作家と登場人物、という客観的な関係性と、息子と父親というプライベートな関係性を見事に使い分けて、まさに彼にしか撮れない素晴らしい真実の瞬間が映画の中に息づいているのである。




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