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改訂 1997/12/8
移設 1999/4/29

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銀幕のいぶし銀・第35回

『ホーホケキョ・となりの山田くん』

('99・松竹=スタジオジブリ)

監督:高畑勲
原作:いしいひさいち
声の出演:朝丘雪路、益岡徹、矢野顕子

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 今、日本映画を語るうえで、アニメを欠かすわけにはいかない。現在世界に通用する日本の文化といえば、間違いなくアニメとゲームなのである。アニメーション映画の基礎を築いたのはディズニーかもしれないが、その可能性を非常に大きく広げたのは日本なのである。

 その中でも、現在日本映画において最も中心的存在が、『火垂るの墓』『もののけ姫』などを製作するスタジオジブリである。宮崎駿と高畑勲という両巨匠をかかえ、こだわりのある作品作りで、一本公開されるたびに日本中の注目を浴びる存在になっている。興業記録を塗り替える大ヒットとなった『もののけ姫』の後、しかもディズニーを通して全世界配給がすでに決まっている中、高畑勲が選ぶテーマは、10数年前TVドラマにもなった4コマどたばたマンガ「山田くん」なのである。これには少々驚かされた。

 お父さん、お母さん、お婆さんに高校生の息子と小学生の娘。この5人家族が繰り広げる、平凡な毎日のホームドラマ。学校に遅刻するとか、お父さん忘れ物とか、典型的エピソード集なのである。いわばサザエさんのような話を大スクリーンで見ているようなものであるが、だがしかし、それが単純に笑えてしまうのである。実際劇場での反応が、極めて好意的なのだ。一言でいえばかつての「寅さん」を映画館で見るときの、あの独特の親近感・一体感に近い。紛れもなく定番で王道のホームコメディ映画なのである。

 アニメ技術論的な話になるが、この作品は日本で始めてセル画を全く使わず、フルCGで作り上げられた。それがスチルを見てもらえば分かるように、背景画もろくにないスケッチのような絵づらなのだ。新技術を逆手にとった映像表現。これはあからさまに演出上の狙いでやっていることだ。

 考えてみればこれこそ高畑勲が今回目指したものだと、後で気づかされるのである。「現代において老若男女全てが楽しめるホームコメディをアニメで成立させる」という、一見簡単そうだが実は非常に難しいテーマにチャレンジしているのだ。これはつまり「国民映画」を指向することである。それが、どんな人の「となりに」いてもおかしくない家族、親近感あふれるマンガを原作に持ってこさせたのであろう。

 アニメがこれほどまでに浸透している今こそ、子供向けアニメとは全く違うアプローチで、真の「国民映画」アニメを作る。これこそが真のチャレンジ精神と言えるのではないだろうか。そして今年は『のど自慢』といい、もしかしたら国民映画復興の年なのかもしれない。




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