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改訂 1997/12/8
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銀幕のいぶし銀・第34回

『マイ・ネーム・イズ・ジョー』

('98・イギリス)

監督;ケン・ローチ
出演;ピーター・ミュラン、ルイーズ・グッドール

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 「007」シリーズ以降最近のイギリス映画といえば、『トレインスポッティング』をはじめ若者向けの勢いのある映画で絶好調な印象があるのだが、今回紹介する『マイ・ネーム・イズ・ジョー』は実にストレートな人間のドラマである。イギリス労働者階級の厳しい現実に生きる男の幸せ・不幸せと純情な恋愛の物語なのである。

 主人公は、アルコール依存症からようやく脱却できたという男・ジョー。酒を断ち、普通の生活に戻ってきたといっても、ジョーには職もなく家族も既にない。彼にあるのは「ジョーという名前だけ」なのである。それでも彼を取り巻く友人たちのお陰で人間の絆を取り戻すジョー。ちょっとしたきっかけで知りあった福祉健康管理センターの女性・セーラと魅かれあい、少しずつ恋愛を育んでいくのである。このジョーを演じるピーター・ミュランはじめ、登場人物は全て演技というものを越え、生々しい生活を生きているとしかいえない素晴らしさだ(昨年のカンヌ映画祭で主演男優賞を取っている)。

 まるでドキュメンタリーのように人生を描いていく監督のケン・ローチは、今のイギリス映画界を代表する名匠である。彼は一貫して、イギリス社会の中でも様々な問題をはらむ労働者階級に焦点を当て、そこに生きる子供たち大人たちの、厳しい現実と生活を追いかけている。近年比較的スケールの大きな作品が続いていたが、今回は本国のグラスゴーに舞台をしぼり、彼本来の持ち味である人間の交流の物語に大きくフォーカスしている。彼の映画は徹底して人間に備わっている魅力、生活力や愛の力であり、「人間がシンプルに生き生きすること」なのである。

 そして彼の映画は今回もそうだが、単なるハッピーエンドの物語ではない。ジョーが良かれと思ってしたことがきっかけで、甥を死に至らしめることになり、セーラとの関係も難しくなってしまう。苦しんだ末にたどり着いた小さな幸せが、いとも簡単に消え去ってしまうのだ。だがこの作品がすごいのは、そんなジョーに救いの手を差し伸べることは決してしないのである。ストーリーとして体裁よく終わらせようなどと全く考えないその徹底ぶりと、個人レベルでどうにもならない人生の厳しい現実をただ直視すること。これこそが人と人の交流なのである。その厳しさにさらされた人間たちの傍にいて、つぶさに描ききっていくことは、真に人間そのものを信じているからこそ出来ることだ。それこそが監督ケン・ローチ最大の「優しさ」なのである。




[ 銀幕のいぶし銀:目次 ]

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