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改訂 1997/12/8
移設 1999/4/29

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銀幕のいぶし銀・第22回

『ダロウェイ夫人』

('97、イギリス・オランダ合作)

監督;マルレーン・ゴリス
出演;ヴァネッサ・レッドグレイヴ

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 自分の人生が本当に充実し価値あるものなのかどうか。青春時代にはだれしも抱えるこの真摯な問いも、やがて年を経て日々の雑事に追われるようになると心の片隅に追いやられていき、振り返ることがなくなっていく。

 だがこの問いは根深い。普段は隠れているこの問いも、些細なことをきっかけに頭をもたげてくることがあるだろう。生きていく上で決してないがしろには出来ない問いである。

 自己が揺らぎ、今まで築き上げてきた人生の根底を揺るがしかねないこの問題に正面から立ち向かうのが、今回紹介する『ダロウェイ夫人』である。これはイギリスの作家ヴァージニア・ウルフの同名小説の映画化だ。

 今まで不自由なく暮らしてきたが、病気をきっかけに老いや死を意識し始めた老夫人(ヴァネッサ・レッドグレイブ)。彼女が昔親しかった男との再会を通じて思わず人生を振り返る。今世紀初頭のロンドンが舞台だが、真摯に生き方を追及する老いた上流階級夫人の回想を、静かにじっくりと描き出していく。

 希望に満ち、自由でリベラルだった若き日の思い出。世界の変革を夢想し、上流階級の友人の中でも一際お転婆だった彼女も、ロマンティックで破天荒なピーターではなく、安定した政治家リチャードとの結婚を選んでしまう。そして今の年になって、本当にそういう人生が正しかったのか、自問し始めるのだ。

 夫人の内面をひたすら追っていく構成に、名女優ヴァネッサ・レッドグレイブの絶妙の演技がリアリティを増す。一つの疑念をきっかけに、次々と不安が膨らんでいく心理の揺れを全く見事に表現している。

 そしてここに、第一次世界大戦の傷痍軍人のエピソードが象徴的に登場するのが重要だ。戦場で友人を失った男は心の傷が癒えない。車のクラクションにも過剰に反応し、遂には命をなげうってしまうこの傷ついた男こそ、この真摯だった時代の被害者である。映画表現としてはやや観念的なのが惜しまれるが、生を追及するがゆえに自己を否定するこの悲劇。美しい6月のロンドンの風景と裏腹な対象をなしているこの皮肉。

 ここに、人生は後戻りできない、という事実を直視せねばならない。失敗や間違いなど、後悔の種は尽きないが、しかしそれ以上に重要なのは、でも自分は今生きている、という大らかな肯定だ。これのみが、過去の呪縛を逃れ、未来へ自分を解き放つ力となる。生き続ける事によってのみ、次の生へと続いていくからである。






[ 銀幕のいぶし銀:目次 ]

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