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銀幕のいぶし銀・第2回

「おてんとうさまがほしい」
('95、日本/「おてんとうさまがほしい」製作委員会、47分)

  製作・撮影・照明 渡辺生
  構成・編集 佐藤真
  出演者 坂本トミ子、日立梅ヶ丘病院の皆さん

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 この映画を製作・撮影した渡辺生(しょう)さんは、照明技師ひとすじに半世紀以上も日本映画界に生きてきた人だ。ところがある時、妻のトミ子さんがアルツハイマー症と診断されてから、自分で十六ミリキャメラを携えて彼女の姿を捉え出していく。この映画は、そのトミ子さんの二年ほどの生活記録を、「阿賀に生きる」を監督した佐藤真が編集・構成した作品なのである。

 二人の家は茨城県日立市だが、映画の仕事は東京が多いため、仕事に一途な彼は結婚してからも東京と日立の二重生活を余儀なくされていた。子供もなく、離ればなれの日々が多い。そんな生活も二十年以上になろうとする頃、トミ子さんに変化が訪れた。物忘れがひどくなり、同じ話ばかりするようになる。そして雪に滑って手を骨折し、徘徊もひどくなってくる。生さんは毎日つきっきりで奥さんを介護するが、遂にはトミ子さんは入院する事になる。その頃から、生さんはトミ子さんの映画を作ろうと思い始めるのである。

 映画の成り立ちからして、この作品は極めてプライベートなもののように見える。だがこれが単なるホームビデオを越えて感動的なのは、例えば、若い頃のトミ子さんの写真と今の姿が対比される瞬間である。かつてモダンな美人だったトミ子さんと、今は車椅子に乗っているトミ子さん。この対比の中に、撮影した生さんのプロの映画人らしい冷静な眼差しが出現すると同時に、人間誰にも避けがたい「老い」の問題が鋭く立ち上がる。

 生さんは病院で働く看護婦の姿、患者同士の助け合う姿をみているうち、様々な感謝の思いも込めて映画を作るに到ったと語る。その生さんの思いの強烈さ―――今までの二人の生活の寂しさ、病気や介護に対する悲しみや苦しみ、だがそれをも打ち砕かせるトミ子さんへの思い―――この強烈な思いが、今のトミ子さんを、若き日のトミ子さん以上に美しく撮影させる。生さんの撮るカットの一つ一つが、立派な映画の力をこめて屹立するのだ。

 その力を大きくまとめあげていった佐藤真は、こう書いている「今の生さんを見ていると、悪い方向にではあるが、病状が安定したトミちゃんとの日々を淡々とさりげなく受けとめている。……それが生さんの生き様の芯の強さである。その魅力こそ映画で伝えるべきなのだ。」

 昨年四月の都内ロードショウから、全国で上映会が催されているので、チャンスがあったら是非御覧いただきたいのである。

 なお生さんは去る十月、茨城県で地道に地域社会に貢献してきた人の精神と功績をたたえる、第24回「小平奨励賞」を受賞された。

                            96/11/26




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