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改訂 1997/12/8
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銀幕のいぶし銀・第18回

『世界の始まりへの旅』


監督 マノエル・デ・オリヴェイラ
出演 マルチェロ・マストロヤンニ、ジャン=イヴ・ゴーチエ、レオノール・シルヴェイラ

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 フェリーニの映画で活躍したヨーロッパを代表する俳優、マルチェロ・マストロヤンニの、最後の作品が公開されている。

 題名は『世界の始まりへの旅』。冒頭「マストロヤンニの思い出に捧ぐ」の献辞通り、これは思い出(ポルトガル語で「サウダーテ」)を巡る物語である。

  映画撮影の合間を縫って、ワゴン車で旅行している監督と3人の俳優。目的地はポルトガル北部のある村、ここには二つの思い出が重なっている。一つはマストロヤンニ扮する老映画監督マノエルの少年時代の思い出、もう一つはフランス人俳優アフォンソの亡き父の思い出、まだ見ぬ故郷の村に住む伯母を訪ねる旅なのである。

 これはある俳優の実際の体験をベースに綴った物語とのことだが、そこに恐らく、監督マノエル・デ・オリヴェイラの実体験も大きく盛り込まれているのであろう。オリヴェイラはポルトガルが生んだ世界的巨匠で、サイレント映画時代から映画を撮り続け『世界の始まりへの旅』の時は88才という、現役世界最長老の監督でもある。にもかかわらず毎年1本のペースでエネルギッシュに作品を発表し、年齢を全く感じさせない瑞々しさを常に放っているのである。

 そんな映画監督自身の役をマストロヤンニが演じるというのは、意味深いことだ。彼は若い女優と、演技指導とも恋愛ともつかぬ意味深な台詞を交わしたかと思うと、おどけたユーモアを見せたりもする。幼いころ過ごした避暑地のホテルに行っても、今は廃虚になってしまったが、咲いているハイビスカスは変わらない。そして兄弟の思い出話を語るのだ。

 そして一行は伯母と出会うのだが、アフォンソはポルトガル語が話せない。自分と同じ言葉を話せないことに不信感を持つ伯母に、アフォンソは「流れる血は同じだ」と説得する。ここでクローズアップされるのは血と絆のテーマである。血で結ばれた関係、この縁(えにし)の強さを、オリヴェイラは単に家族の絆の物語としてではなく、サラエボなどで起きている民族戦争の惨たらしさまで視野に入れながら、なおかつその力強さを認め、アフォンソと伯母はしっかり抱きしめあうのである。

 監督の甘美な思い出と俳優の厳しい思い出、この二者がポルトガルの同じ場所で繰り広げられるという裏腹な接点をもちながら、なおお互いを認めあっている。この態度は厳しい。監督マノエルは最後に「青春時代の友達も兄弟もみんなもういない……長生きすることは神の賜物だ、だが代償も高い」と呟くのだが、こんな台詞を平然と口に出来るマストロヤンニ=オリヴェイラこそ、映画の寛容さと厳格さを体現しているのではないだろうか。






[ 銀幕のいぶし銀:目次 ]

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