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銀幕のいぶし銀・第17回

『桜桃の味』

監督 アッバス・キアロスタミ

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 昨年度のカンヌ国際映画祭のグランプリ(パルム・ドール)を『うなぎ』(今村昌平監督)とともに受賞した映画『桜桃の味』が、いよいよ公開されている。

 非常に特異な物語である。自殺を決意した男が、最期の姿を見取ってくれる人を探している。若い兵士や神学生らと会話を交わした末、中年の男に諭された主人公はやがて思い止まる、という極めてシンプルな構成の中で、人が生き続けていくことへの純粋なエールがこめられているのである。

 監督のアッバス・キアロスタミはイラン映画の第一人者で、国際的にも高い評価を受け続けている映画作家だ。日本でも『友だちのうちはどこ?』などがヒットし知名度が上がっているが、彼は子供向けの教育映画を長く作り続けた経験から、演技とは違う子供の自然な姿をとらえるのに素晴らしく長けている。そのリアルな姿を映画の物語構成に組み入れていくために、彼独特の演出術が駆使される。それはいわゆる「映画の嘘」を最大限活用する技なのだ。

 例えば映画の中でビルが爆発しても、撮影用にしつらえたものだと観客は分かっているし、人が殴られてもそれはお芝居だと知っている。にもかかわらず、観客はその瞬間スクリーンの状況をリアルな真実に感じてしまうのだ。こういう映像的トリック、それが「映画の嘘」であるが、キアロスタミはそれを逆手にとって見事に映画に生かしてしまう。子供が宿題を忘れた、というシーンを撮影するときなら、その子のノートを本当に隠してしまい、先生に怒られたり泣き出したりする姿をつぶさにフィルムに収める、そんな事も平然とやってのけるのが、キアロスタミの映画なのだ。それで彼の映画に登場する人物は、殆どが全くの素人なのである。

 そんな一連の映画の中でも、なお『桜桃の味』がレベルを超えて素晴らしいのは、まず登場人物たちの姿がリアルに貫かれている点にある。例によって全くの素人を起用しているのだが、自殺を決意した男は全てに諦念しきったような無表情を崩さないし、若い兵士は男の自殺への考えを明かされていくにつれ、みるみる不安と恐れが顔に広がっていく。その様子は見事なまでにスリルに満ち、観客は何かサスペンス映画でも見ているかのような緊張を覚えるのである。しかしこの緊張感は恐らく、キアロスタミ自身が監督として映画を作っていく最中の緊張なのであり、この極端にシンプルな構成要素の組み合わせで如何に映画を物語っていくのか、映画作家としての野心と挑戦がスクリーンに漲っているのである。






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