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銀幕のいぶし銀・第15回

『男はつらいよ・寅次郎ハイビスカスの花[特別篇]』


監督・脚本;山田洋次
出演;渥美清、倍賞千恵子、浅丘ルリ子、吉岡秀隆

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 改めて説明するまでもない有名な映画シリーズ『男はつらいよ』であるが、シリーズ中最も評判の高かった第25作『寅次郎ハイビスカスの花』に、若干の追加シーンとCG技術を加えて再構成されたものが、新たに公開された。

 甥っ子の満男(吉岡秀隆)も今や営業マン、電車に乗って全国を出張する毎日に、道中ふと寅さんのことを思い出すと、幻のようにその姿が現れる、といった趣向なのだが、一時期シリーズ恒例だった冒頭の寅次郎の夢のシーンにどこかオマージュを感じさせるエピソードではある。

 さて映画の本筋は、浅丘ルリ子扮するリリーと寅次郎の偶然の再会から、いつもの淡い恋物語を軸に、沖縄と東京をドタバタ往復しながらの喜劇である。浅丘ルリ子は『寅次郎忘れな草』『寅次郎相合い傘』に続いてこのシリーズ3度目の出演、寅さんとはすでに何度かのすれ違いを経た上での登場なので、さくら(倍賞千恵子)を始め柴又の面々にはおなじみの顔、焦点は二人が本当に所帯を持つに至るのかというところに集まる。このあたり、山田洋次の演出は例によって非常にテンポよく、出演者との息がぴったり合った心地よさは、シリーズ物としての良いお手本のようで観る側としては心の底から安心できる。おそらくこの作品あたりが最も脂ののった時期でそういう意味でも代表作と言っていいのだが、寅さんがここまで人気を得て大ロングランシリーズになり得た核心が、この安心感に根ざしていることは多くの指摘がある。監督の演出術や出演者の演技術、それらが渾然一体となって形作られる淀みない作品づくりは、伝統的な映画における技の集大成であり、その最良の部分を我々は寅さんから観ることが出来る。

 この技は、もちろん渥美清という俳優を抜きには語れない。一般に俳優こそ自分の個性を伸ばす仕事だと考えられている中、浅草出身のコメディアンであり、寅次郎と違って非常に控えめで礼儀正しい人だったという渥美清こそ、登場人物を「演じる」という点に徹する、文字通り「芸の道」を生涯歩み続けた人であり、そういう意味で彼は亡くなるまで「完成」されることはなかった。何度も一目惚れしその度に振られ続けた寅次郎が、それでも常に女を惚れ続けるのは、単にワンパターンなお話なのではなく、未完成な彼自身の姿勢が役柄の上で重なってくるからに他ならない。奇しくもシリーズ最終回となってしまった『寅次郎紅の花』のマドンナが浅丘ルリ子であるが、結果的にはこれこそ寅次郎の未完ぶりを象徴してはいないだろうか。






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