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銀幕のいぶし銀・第130回

『ミリキタニの猫』

(2006年・74分)

監督:リンダ・ハッテンドーフ
出演:ジミー・ツトム・ミリキタニ

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 ニューヨークの街角で、ただ黙々と絵を描き続けている老齢のホームレスがいた。普段そのそばを通り過ぎる事の多かったドキュメンタリー監督は、特に深い狙いもなしに、彼の生涯をささやかに記録にとどめておこうという程度の気持ちで、ビデオキャメラを回し始めたのだが、そんなシンプルなスタートからは想像もできないほどドラマティックな展開を巻き起こしていくのがこの『ミリキタニの猫』という作品の魅力である。


 キャメラを回し始めて間もなく、彼・ジミーは日本人である事が分かる。第二次大戦前に画家になる夢を抱いて日本から移住してきたにも関わらず、戦時中は人種的迫害を受け強制収容所に収監されていた事を知る監督。さらに取材を初めてすぐに2001年9月11日の世界貿易センターへのテロ事件が勃発、住処を追われたジミーを監督は自分のアパートに引き取る事にする。とはいってもまだ若い女性の監督に対し、ジミーはあくまで紳士的に、まるで父親のように振る舞うのがユーモラスであるが、共同生活を通じてジミーの反骨の人生や戦争への反発など、たどたどしい言葉の端々から筋の通った澄んだ気持ちが次々とにじみ出てくるのである。戦中のアメリカ政府の政策で市民権を剥奪され、その後の権利回復もままならぬままジミーは様々に職を変え各地をさまよい、ついにニューヨークでホームレスの地位に落ち着いていったのだが、そんなジミーに何とか救いの手を差し伸べようと、監督は福祉センターに連絡したり身寄りを捜したりと文字通り東奔西走する。根深いアメリカ不信のジミーは、国のお世話にはならないと監督の努力を受け入れようとしないのだが、それでも少しずつ昔の仲間や縁者も見つかりだし、周りの好意を素直に受け入れられるような気持ちに変化していく様子を、文字通りドキュメントで淡々と捕らえていくのである。


 映画は最後に、実の妹に巡り会うという奇跡のような終わりを遂げるのだが、こんなあまりに出来すぎたエピソードの代わりに、ジミーがかつてのツールレイク強制収容所を60年ぶりに訪れるところがクライマックスになるのが、映画の有り様として実に素晴らしい。反骨の画家の脳裏に深く刻まれ何度も描き続けたツールレイクの風景が、その眼前に変わらず存在するものの、これまでの流転の人生をようやく昇華しきったジミーの表情が、複雑でありながら実に穏やかなのである。これぞドキュメンタリー映画の最もシンプルで力強い瞬間であり、この映画の力強さこそが、各国の映画祭で大いなる賞賛と喝采を受けてきた源なのである。





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