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「銀幕のいぶし銀」第13回

『GOING WEST 西へ…』('97年、日本/向井プロ+東映)

  監督;向井 寛
  出演;淡島千景、大沢樹生、藤谷美紀、清川虹子、山村聰、森繁久彌

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 『うなぎ』がカンヌを取り、加えて『HANA-BI』(北野武監督)がベネチアで賞をとってからというもの、いわゆる作家性の強い日本映画が、本当に多くのマスコミに取り上げられるようになってきた。

 実際、日本映画の底力は軒並み上がっているのだが、それにようやく世評が追い付いてきた感がある。やみくもに「日本映画は斜陽だ」と言われ続けた頃から比べると変わったと思うが、そういう日本映画を取り巻く状況が好転しつつある一方、逆に非常に成立しがたいジャンルの映画も出てきている。それは何か。

 ちょうど今、そういう映画が2本公開されている。一つは、復活へ向かう日活の再開第1弾『愛する』(熊井啓監督)。遠藤周作の『私が・捨てた・女』をベースに、ハンセン氏病と誤診された少女の悩みと解放、そして純粋な愛情を描いた作品だ。酒井美紀、渡部篤郎ら若手俳優をバックアップするのは、小林桂樹、岸田今日子、そして宍戸錠、松原智恵子らの旧・日活俳優たちである。

 そしてもう一本は、今回取り上げる『GOING WEST 西へ…』(向井寛監督)。オールドファンには懐かしい、淡島千景(主演は37年ぶりだという)扮するおばあさんが、愛車に乗って東京から四国・松山までドライブ、道中巻き込まれる騒動の中、初恋の人(山村聰)に会いに行くという物語。森繁久彌をはじめ、清川虹子ら、往年の大俳優達の共演が最大の見物である。

 両者とも大ベテラン監督の、昔からの映画会社(東映、日活)の配給である。作品はといえば、オーソドックスな、かっちりした作りに仕上がっている。つまりは、「昔ながらの映画」といっていいと思う。しかし今は逆に、こういった映画を見ることの方が少ないのだ。

 勿論『午後の遺言状』(新藤兼人監督)のように、それなりにヒットした例もあるが、シニア層を中心に狙った映画は一般的に難しいといわれる。『〜西へ…』は、その状況に果敢に取り組んでいるのである。

 それにしてはこの映画、少々力不足の感もないわけではない。ただ淡島千景が懐かしい、という動機だけで観客を小屋に運ばせるのは難しいわけで、そこには、何故映画なのか、という真摯な追及が欠けているように見えるのだが、そういう映画作りは決して悪くないと思う。映画には既に百年の歴史があり、その最も年長の客層を満足させうる映画は、経験豊かなスタッフからでないと生み出せない物もあるであろう。この機会に、そんな狙いの作品が新たなシニア層の観客を開拓してくれることを願うのだ。

                  1997年 10月 15日






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