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銀幕のいぶし銀・第125回

『松ヶ根乱射事件』

(2006年・112分)

監督:山下敦弘
出演:新井浩文、山中崇、木村祐一、川越美和、三浦友和

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 山下敦弘といえば、女子高生が急遽ガールズバンドを組んで学園祭で演奏するまでの濃密な3日間を描く傑作青春映画『リンダ リンダ リンダ』が記憶に新しいが、この映画が魅力的だったのは、何より監督の演出力の確かさに由来する部分が大きい。登場人物たちの描写が実に的確だったのである。様々な人物の一部始終を、表も裏も誇張せずありのまま見つめ続けていくアプローチが、若手監督らしからぬ非常に落ち着いた風格を感じさせ絶賛を浴びる事になったのだが、今回の新作『松ヶ根乱射事件』ではこの独特の等身大の人物描写にさらに磨きがかかって冴え渡っている。とある田舎の寒村の群像劇をダークコメディ調に仕上げているのであるが、欠点だらけの家族のしがらみの中で生きていくしかない比較的マジメな若者が、どうしようもない人生の泥沼にはまっていく様子を描くという怪作である。


 主人公の新井浩文は、事件らしい事件も起こらない田舎町で毎日を淡々と過ごしている若い警察官であるが、その父親(三浦友和)は女にだらしなく殆ど家出状態だし、双子の兄(山中崇)もろくに家業の畜産も手伝わないで日々ダラダラと過ごしている。他にも登場する男たちが揃いも揃って見事にダメ男なのであるが、そのダメさぶりが何とも人間臭い魅力を放つところがまず素晴らしい。ある日、山中崇が余所者の女(川越美和)をあて逃げしてしまった所から話が動き出すのだが、一命を取り留めたその女が実はチンピラ風の男の情婦らしく、山中はチンピラに強請られる事になっていく。一方父親の三浦友和は近所の若い娘を孕ませたと疑いをかけられるが満更否定するでもなく、おかげで家族も何とも気恥ずかしい事になってしまう。ジワジワと追いつめられている山中は金の工面に困り、いよいよ家の金に手をつけるに至って、家族間のバランスが一気に崩れていくのである。


 現代における寓話を見ているような面白さで物語に引き込まれていくのだが、物語上の設定として、携帯電話もなかった90年代初頭という事になっているのが興味深い。ちょっと古くさい感じを実にうまく物語り的に生かしているのも注目すべきであるが、それよりも山下敦弘の映画的リファレンスが実は90年代にあったのだという事も、映画のリアリズムを生み出す陰の要素であるように思えてくる。独特のまったりした人物描写の感じだけでなく、冒頭、雪の中に女がぽつんと倒れている様子などはやはりコーエン兄弟を想起させるのだ。全く意外な形で、物語の下世話さ・滑稽さと映画的な品格が同居している様、そんな映画的に美しい瞬間が突然、目の前に出現してしまう事に思わず興奮させられるのである。





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