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銀幕のいぶし銀・第122回

『硫黄島からの手紙』

(2006年・アメリカ・141分)

監督:クリント・イーストウッド
出演:渡辺謙、二宮和也、伊原剛志、加瀬亮、中村獅童、裕木奈江

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 太平洋戦争末期の激戦地・硫黄島での戦闘を日米双方の視点から描く戦争大作2部作のうち、日本篇である『硫黄島からの手紙』がいよいよ公開される。既に公開されているアメリカ篇『父親たちの星条旗』をご覧になった方も多いと思うが、その戦艦・飛行機・戦車など圧倒的な物量の兵器で押し寄せるアメリカ軍に対し、洞窟の中からひたすらゲリラ戦を仕掛ける日本軍の姿は『父親たち〜』の方ではほぼ全く描かれていない。姿を現さない戦い方をしている側を敢えて描く事なく、その「見えない敵」という恐怖のイメージを増幅する、これこそがアメリカ側の「視点」の本質であり、その戦術にアメリカ側は翻弄され、混乱を繰り返した挙げ句犠牲者を増やしてしまう。だから確かに『父親たち〜』で日本軍側を描く必要はないのであるが、クリント・イーストウッドが『父親たち〜』の映画化を進める際、それだけではどうしても片手落ちだからと日本軍側の物語を同時に別に作るという決断を下したのは、さすがにイーストウッドの監督としての類い稀な才能と視線に感嘆せざるを得ない。『父親たち〜』において欠落している日本兵にまつわるエピソードを単に補完するのでなく、『硫黄島から〜』が描くのは、敗戦の色濃い戦争末期、絶対的に兵力の劣る状況の中で戦わざるを得ない硫黄島防衛戦を、最後まで生きて戦い抜こうとする男たちの姿を通じて、戦争という極限状況の中でしか描き得ない人間の本音の姿なのである。


 『硫黄島から〜』がまず何より評価されねばならないのは、クリント・イーストウッドというアメリカ人監督が、完全に日本人による日本の物語を撮るという点である。もちろん過去にもアメリカ映画に日本人の物語や日本を描く映画は数多く存在するが、それらの多くは適当にアメリカナイズされた「日本テイスト」の映画でしかない。イーストウッドはそれに反して、日本・日本人が異文化であることをまず認識した上で、そのありのままを真摯に描こうとするのである。実際『硫黄島から〜』は描写も含めて相当リアリズムを追求した映画であり、日本人から見て不自然に思えるような部分はないのだが、それでも日本人監督とは明らかに違う部分に興味を抱いているのが良く分かる。簡潔に言ってしまえば、恐らく戦争という状況が人間の狂気を生み出す、という点は世界共通かもしれないが、その狂気の質に文化的差異が現れ、それによって人の生き死にまで大きく変化していく、という様を2部作を通じて浮かび上がらせようという試みなのである。





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