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改訂 1997/12/8
移設 1999/4/29

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銀幕のいぶし銀・第117回

『日本沈没』

(2006年・『日本沈没』製作委員会・135分)

監督:樋口真嗣
出演:草なぎ剛、柴咲コウ、石坂浩二、豊川悦司、大地真央

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 大作が揃う今年のサマーシーズンの中でも、邦画一番の注目作といえばこの『日本沈没』である。いうまでもなく、1973年に大ブームを巻き起こしたあのSFスペクタクル大作のリメイクだ。ここ数年だけでも何度かリメイクの話が立ち上がりながら、実現にまでは至らなかったものだが、いよいよ主演に草なぎ剛、柴咲コウという当代人気ナンバーワン俳優を揃えて、遂に完成に至ったのである。アメリカ映画では最近でも『ポセイドン・アドベンチャー』のリメイクなど相変わらず安易な旧作リメイクが横行し、その中にはCGなどの絵作りの派手さだけで逆にスケール感の乏しい作品も見受けられるが、この『日本沈没』に関しては、旧作に対する敬愛の念に溢れながらも現代の最新状況をふんだんに取り込みつつ、物語的には自然の驚異に果敢に立ち向かう若者たちを主軸に据えるなど現代的にアレンジされ、文字通りリメイクされるに相応しいスケール感の大きさを伴った超大作に仕上がっている。


 日本列島各地の断層が活動をはじめ、火山噴火、大地震、大津波が全国を襲い、日本全体が水没の危機にさらされるという未曽有の国難に対し、前回はそのパニック状態と逃げまどう人々を国外脱出させるための方策に向かう物語であったが、今回の田所博士(豊川悦司)は列島を沈没から救う計画を編み出すし、阿部玲子役の柴咲コウは最早お嬢様ではなくハイパーレスキュー隊員という役柄となり、災難に苦しむ市井の人々を救うことに情熱を傾ける。阪神大震災を初めとする大きな自然災害を経験し、乗り越えてきた現代だからこそ生み出し得たリアリティをうまく物語に生かし、ただのパニック映画に留まらない、前向きなメッセージ性のある作品へと展開しているのである。


 勿論最新のCG技術を駆使して描かれる列島沈没の模様は迫真のリアルさなのだが、このリアルさは映像技術の進歩というよりも、近年の実際の大地震や大津波のニュース映像などをよく研究した結果生み出されたものである。旧作の映像が「見たこともないような」驚異であるとしたら、今回は「本当の災害映像のような」リアルさを目指していると言える。こういうところも今の観客の実情を踏まえたからこそ可能な映像表現であり、リメイクに足る意味のある部分だ。それより何より、破壊された町のセットを見ても、北から南まで全国にまたがるロケーションを見ても、この映画が目指しているのは大作という言葉に恥じないスケール感であり、作品クオリティのためには惜しみなく人材・資源を投入する姿勢である。とかく日本映画につきまといがちな、どことなく貧相なイメージから完全に脱却しているだけでなく、今やアメリカ映画にすら見出し得ない本当の映画の贅沢さがここにあるのだ。このような映画が遂に日本で作られるようになったことが、今の日本映画の活況を物語っていると言えよう。





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