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銀幕のいぶし銀・第110回

『疾走』

(2005年・「疾走」製作委員会・125分)

監督:SABU
出演:手越祐也、韓英恵、中谷美紀、豊川悦司

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 年末に集中する大作・話題作の中で、小規模公開ながら注目すべき作品がこの『疾走』である。原作は直木賞作家・重松清のセンセーショナルな小説で、現代社会のひずみや悪意の中で押しつぶされていく家族、という難しいテーマに真正面から取り組み、その奔流に巻き込まれ社会からはみ出していかざるを得ない少年と少女の軌跡を描く大長編を、2時間強の時間にまとめ上げた力作であるといえよう。


 主人公・シュウジはいわゆる中流家庭に育つごく普通の少年だったが、ヤクザ物の夫婦やいわく付きの神父と出会う事で、じわじわと世の中のひずみ〜無意識の差別やいわれのない悪意〜を垣間見ていく。管理型の学校内では表面的にうまくやっていても、心の何処かでそれに反撥する思いを意識せざるを得ない、そんなある日、やはり周りの社会に辟易しきっている孤独な少女・エリと出会い、二人は奇妙に意気投合していく。ところがシュウジの兄が社会の無意識の圧力に耐えかねず、大事件を起こしてしまうあたりから家族があっけなく崩壊し、それをきっかけにシュウジは世の中から「はみ出した」人生を歩み始める。エリを求めて都会へ向かう間にも、凄惨な大人の世界に巻き込まれるシュウジは必死で抵抗を試み、道なき道を走っていくのである。


 監督のSABUは、デビュー作「弾丸ランナー」からその独特のテンポの良い語り口が魅力の作品を生み出していったのだが、今回初めて原作物に取り組み、しかもそれが内容的に非常に扱いの難しい物であるからか、ふだん以上に映画にかける意気込みが画面から滲み出している。物語の最初の舞台である「浜」と「沖」と呼ばれる土地のロケーションも、何とも無機質にのっぺりした風景が逆に人の心をすさませるような味を出しているし、主人公となる手越祐也と韓英恵は演技という以上の存在感を感じさせる。少年と少女が持つ純朴さ故に人生の軌道が狂っていくという荒涼とした物語を、変な映像的装飾もせずあくまでストレートに追いかけ続けるというのは、これまでのSABUの映画の持ち味と変わらず、その結果映画自体は重々しさを感じさせない作品になっているのである。この手の題材の映画は興行的になかなか難しい物があるが、そんな状況を跳ねとばすようにこのような映画を制作してしまうという事自体が今やチャレンジであるし、逆に今だからこそ取り組む価値のある題材である事も間違いない。そしてこのような取り組みは、テレビドラマなどでは絶対不可能な、映画だからこそあり得る表現なのである。





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