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銀幕のいぶし銀・第102回

『エレニの旅』

(2004年・ギリシャ・フランス・イタリア・ドイツ合作・170分)

監督:テオ・アンゲロプロス
出演:アレクサンドラ・アイディニ、ニコス・プルサニディス

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 今、巨匠と呼べる監督は世界にも数えるほどしかいない。その中の一人、テオ・アンゲロプロスの6年ぶりとなる新作がついに公開されるが、まさに満を持した登場と呼ぶに相応しい、堂々たる風格の傑作である。


 ロシア革命でオデッサに赤軍が入城した1919年、そのあおりで逆難民となって帰国するギリシャ人たちのなかに、エレニという孤児の女の子がいたところから始まる物語は、この一人の女性の成長、やがて母となって強く生きぬきながらも、大きな歴史のうねりの中で巻き起こる様々な悲劇を、まさに叙情詩的映像で見事に描いていく。エレニというのはギリシャでは良くある女性の名前とのことだが、同時にギリシャ自身の愛称でもあり、つまりは普遍的な女性の物語を通じて20世紀ギリシャの歴史的悲劇を投影していくという大テーマを持っている。このプランを実現するため、撮影に2年以上の歳月と、難民が築き上げた村を完全に再現するオープンセットが作られたとのことだが、この映画が偉大なのは単に作品背景が大きいからではない。無論撮影時間をかけたりすることでも、資本を投入して巨大なセットを作ったからでもなく、また撮影用の村に実際に俳優陣を住まわせ生活のリアリズムを生み出していったり、編集に更に1年以上かけて完成度を高めていったからでもない。これらの作業は全て、フィルムに詩的リアリズムを凝縮させようというアンゲロプロスの内的映画時空間の強度がもたらした物であり、この映画に向けられた一つ一つの努力は余すところなくフィルムに定着し、通常ではとても比較にならないレベルにまで映画が深まっているのが、もう巨匠の仕事と呼ぶしかない見事さなのである。映画の冒頭近くで、エレニが遠くの街から川を下って帰ってくる風景を、延々とロングのワンカットで捉えるキャメラからして驚異的な充実ぶりを発揮しているのであり、このような風景カット一つ見ただけで、CGで書き足されたような凡百の映画なぞ吹っ飛んでしまう。本当に久しぶりにみる、本物の映画の画だといえよう。


 アンゲロプロスで女性が主人公の映画はかなり珍しいのだが、この骨太にして繊細な物語の味わいは今までのアンゲロプロスの作品とも微妙に違って、想起される作品を敢えていいきれば黒澤明や成瀬巳喜男なのである。特に後半、エレニが夫と別れ女一人で生き抜いていく力強い半生記を実に端的かつ繊細に描き出す手法は、本当に最高級の傑作日本映画を見ているような思いにとらわれる。真の意味のA級映画であり、現代にこんな映画が出現した事自体奇跡的なことなのかもしれない。





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